目次
鍼治療をおこなっている人の多くが、ディスポ鍼と呼ばれる使い捨ての鍼を愛用していますが、実は鍼の部分が短い皮内鍼や円皮鍼と呼ばれる鍼があります。
いずれも鍼を皮下に刺入(しにゅう)することで、期待する効果を引き出すのですが、では皮内鍼と円皮鍼にはどのような違いがあるのでしょうか。またどのようなときに使うとよいのでしょう。
皮内鍼の特徴
皮内鍼と円皮鍼の違いについて解説する前に、まずは皮内鍼と円皮鍼の特徴について知っておきましょう。まずは皮内鍼の特徴を紹介します。
鍼と竜頭から出来ている
皮内鍼の特徴は、鍼と竜頭(りゅうず)から成っているところです。
通常の鍼治療で用いられている鍼は、1本の鍼がまっすぐに伸びています。一方、皮内鍼には短い鍼の部分と、円形の竜頭の部分があります。
円形の竜頭を設けることによって、短い鍼が皮下に潜りこまないようになっています。
5mmほどの鍼が付いている
鍼灸の施術所では、使い捨てのディスポ鍼を用いるケースが増えています。ディスポ鍼は個包装になっているため持ち運びに便利ですし、使い捨てなので1回1回鍼を消毒する面倒もありません。そのため、多くの鍼灸師がディスポ鍼を愛用しています。
ディスポ鍼の長さはいろいろなのですが、もっともポピュラーなのは1寸から1寸6分(鍼柄∔30mm~50mm程度)の長さの鍼です。
一方、皮内鍼に用いられている鍼は、5mm程度と短いのが特徴です。なぜなら、皮内鍼は皮下に留め置いたままにするタイプの鍼=置き鍼(おきばり)の一種だからです。
皮内鍼も基本的に使い捨てなので、使うたびに消毒する必要がありません。またディスポ鍼同様、持ち運ぶのにも便利です。
皮内鍼の歴史
皮内鍼は置き鍼(おきばり)と呼ばれる鍼なのですが、このような鍼が考案されたのには、鍼治療の歴史が関わっています。
鍼治療の一つに「留置鍼(りゅうちしん)」と呼ばれる技法があります。鍼を単に皮下に刺してすぐに抜いてしまうのではなく、10分から20分ほど刺したままにする技法です。
ただ、鍼を刺している間、被施術者は動くことができないため、身体的負担が強いられます。そこで、鍼を刺したままでも身動きができるよう、皮内鍼が開発されました。
皮内鍼を考案したのは鍼灸師である赤羽幸兵衛(あかばべこうべえ)という人で、その後、灸頭鍼や皮内鍼法などさまざまな治療法を提唱しました。
円皮鍼の特徴
円皮鍼も皮内鍼と同じく、置き鍼の一種です。施術所では皮内鍼に比べると、円皮鍼の方が比較的よく用いられているようです。では、円皮鍼の特徴を紹介します。
鍼とテープが一体になっている
円皮鍼の最大の特徴が、「鍼とテープが一体になっている」という点です。皮内鍼は鍼と竜頭だけなので、別途テープで固定する必要がありますが、円皮鍼にはテープがついているため、その必要がありません。
0.9mmから2.2mm程度の鍼が付いている
円皮鍼には、0.9mmから2.2mm程度の短い鍼がついているという特徴もあります。通常の鍼治療に使われる鍼はもちろんのこと、皮内鍼の鍼よりもさらに短くなっています。
皮内鍼と円皮鍼の違い
皮内鍼と円皮鍼とでは、刺入法や扱いやすさに違いがあります。
刺入法の違い
刺入法とは、鍼を刺す方法のことを意味します。通常の鍼治療に用いられる鍼の場合、鍼管(しんかん)と呼ばれる管に鍼を通し、ツボに鍼を刺します。一方、皮内鍼や円皮鍼を刺すときには、おもにピンセットと指を使います。
皮内鍼を刺入する場合、あらかじめ「枕」と呼ばれる5mm四方のテープを竜頭の部分に貼っておきます。それによって、竜頭が直接肌へ触れるのを防ぎます。
次に、ピンセットで竜頭の部分をつまみ、刺入する場所の皮膚に対しておよそ20度の角度で、横方向へ2mmから3mm程度刺入します。その後、「布団」と呼ばれるテープで鍼全体を覆います。
円皮鍼はもともとテープと一体となっているので、ピンセットでシートからはがし、垂直方向へ鍼を刺入します。
円皮鍼を刺入するときのコツは、「でこピン」をするイメージで、鍼を勢いよく刺入することです。そうすることで患者さんに痛みを感じさせず、円皮鍼を刺入することが可能です。
扱いやすさの違い
「扱いやすさ」にも、皮内鍼と円皮鍼には違いがあります。
皮内鍼は鍼の部分が独立しているため、枕用のテープと布団用のテープが別途必要になります。一方、円皮鍼は鍼とテープが一体となので、シートから剥がすだけですぐに使えます。
また皮内鍼は鍼の部分が独立しているため、指を滑らせて落としてしまう危険性がありますが、テープと一体になっている円皮鍼の場合、そのようなリスクがほとんどありません。
ですので、実際の施術の局面において、皮内鍼の場合は手数が多くなるため、施術に時間がかかるというデメリットがあります。円皮鍼はシートからはがして貼るだけなので、サクサク施術を進められます。
価格の違い
皮内鍼と円皮鍼では、価格にも若干の違いがあります。皮内鍼はもっともリーズナブルなものだと、1本あたり10円を切ります。
一方、円皮鍼の場合、1本あたり10円を超えるものが多いです。通販では1本10円以内の円皮鍼も販売していますが、送料がかかるため、やはり1本あたり10円以上する計算となります。
ただし、皮内鍼の場合は鍼以外に貼付用のテープが必要となります。そのように考えると、価格の違いで選ぶというより、好みや使いやすさで選ぶ方が良いでしょう。
皮内鍼と円皮鍼特有の使い方
皮内鍼も円皮鍼も置き鍼の一種であり、基本的には同じような使い方をします。ただ鍼の長さや刺入法から、皮内鍼特有の使い方や、円皮鍼特有の使い方も出てきます。
皮内鍼と円皮鍼は「虚証」と「実証」で使い分ける
東洋医学では、人間の体質や症状の現れ方によって、虚証と実証の2タイプに分けています。虚証は簡単にいうと、身体から元気が失われている状態です。
症状的には慢性的に続くような疾患を虚証に分類しています。例えば慢性的な肩こりや自律神経失調症、全身の倦怠感などが虚証に特徴的な症状です。
また虚証の場合、患部に冷えを発しているという特徴があります。普段からあまり活力がなく、どちらかというと華奢な人に虚証の人が多いようです。
一方、実証の人は比較的がっしりとした体型をしており、普段から活力に満ちているという特徴があります。
症状的には、患部が赤くなっており、なおかつ圧痛があるということです。例えばぎっくり腰や寝違えといった急性疾患が実証に特徴的な症状です。
皮内鍼特有の使い方
皮内鍼は、よく虚証の人に用いられます。症状が慢性化している虚証タイプの場合、改善に時間がかかる傾向にあります。そのため、刺激の弱い皮内鍼を用いて、根気強く治療を継続することが重要です。
円皮鍼特有の使い方
円皮鍼は、よく実証の人に用いられます。皮内鍼は皮膚に対して横方向に刺入するため刺激が少ないのですが、円皮鍼は皮膚に対して垂直に刺入するため、皮内鍼よりも強い刺激を得られます。
そして、そのような刺激は実証タイプ向きです。患部が赤くなっており、押すと痛がるような場合、円皮鍼を用いるのがおすすめです。
皮内鍼や円皮鍼ではおすすめのツボが異なる
皮内鍼や円皮鍼ではおすすめのツボが異なるので、それぞれ簡単に紹介します。
皮内鍼におすすめのツボ
皮内鍼におすすめのツボは、顔や耳のツボです。基本的に皮内鍼を刺入しても皮下組織に到達しないため、内出血のリスクがほとんどありません。
また皮内鍼は耳のツボにもおすすめです。耳つぼダイエットという施術法がありますが、鍼灸院では主に皮内鍼を用いて、耳のツボを刺激するのが一般的です。
円皮鍼におすすめのツボ
円皮鍼におすすめのツボは、肩こりや腰痛といった症状に効果的なツボです。特に痛みやコリが強い場合、皮膚に対して垂直に刺入する円皮鍼が効力を発揮します。
肩こりのツボとしては肩井(けんせい)や膏肓(こうこう)、腰痛のツボとしては志室(ししつ)や大腸兪(だいちょうゆ)などが知られています。
皮内鍼と円皮鍼をうまく活用して健康を手に入れよう
・皮内鍼と円皮鍼はともに置き鍼の一種で、刺したまま放置できるのが特徴
・皮内鍼と円皮鍼の違いは刺入法や貼り方
・皮内鍼はどちらかというと虚弱体質の人におすすめ
・円皮鍼はどちらかというと普段から元気な人におすすめ
皮内鍼と円皮鍼はともに、留置鍼として用いるために開発されました。いずれも貼っておいたままにできるので、治療効果を高めることが期待できます。ただ両者は刺入法が異なるため、使い分けることが重要です。
慢性的な疾患には皮内鍼を用いて、症状が強く現れている場所には円皮鍼を用いるとよいでしょう。皮内鍼と円皮鍼は美容方面に用いられる鍼でもあるため、うまく利用すればより多くの患者さまの悩みを改善できるでしょう。