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お灸や鍼というと、痛いとか熱いといったイメージをお持ちの方もいると思います。実際にはほとんど痛みがないか、痛みがあってもチクッとする程度なのですが、なぜかネガティブなイメージを持つ方も多いようです。
ではなぜお灸や鍼にネガティブなイメージが持たれるようになったのでしょう。今回は鍼灸治療に対する誤解を解くとともに、お灸や鍼の種類などについて解説します。
お灸や鍼にネガティブなイメージが持たれる理由
最初に、お灸や鍼にネガティブなイメージが持たれる理由を紹介します。
痛そう
お灸や鍼にネガティブなイメージを持つ最大の理由が、これらの施術が痛そうだということです。特に鍼治療に関しては、自分から見えないところに鍼を刺されることに、恐怖心を抱く人も多いようです。
また、初めて受けた鍼治療で痛みを感じた場合、「鍼治療=痛いもの」というイメージが定着するケースもあります。
熱そう
お灸に対してネガティブなイメージが持たれる理由は、なんと言っても施術が熱そうだということです。
もともとお灸に使われるもぐさはヨモギから作られています。ヨモギの葉の裏には白く光る綿毛がありますが、この綿毛からもぐさが作られます。
ヨモギの綿毛には油分が含まれているため、ツボにおいて火をつけることで、温熱治療が可能なのです。
昔は一般家庭でも、もぐさがよく用いられており、子供が悪戯をすると灸を据える(やいとをすえる)といって、躾の一環として懲罰的にお灸をしたものです。
このような躾のせいで、「お灸=熱くて嫌なもの」というイメージが広まったのです。
実際の鍼灸治療
鍼灸治療にネガティブなイメージを持つ人も多いですが、結論から言うと鍼灸治療はたいして痛くありませんし、熱くもありません。
鍼治療に用いられている鍼はとても細く、ほとんど痛みを感じることがありません。たとえば、予防接種など注射の際に用いられる注射針の場合、針の太さが0.7mmから0.9mm程度です。
一方、鍼灸で用いられる鍼はたったの0.14mmから0.34mmしかありません。髪の毛の太さがおよそ0.1mmであることを考えれば、鍼治療に用いられる鍼がどれほど細いか分かることでしょう。
そのため、鍼治療をおこなった際に、ほとんど痛みを感じないのです。
お灸に関しても、実際に施術所で用いられているもぐさの大きさは、大きくて米粒大程度、小さいものは米粒の半分程度の大きさでしかありません。
まれに弘法灸(こうぼうきゅう)といって、あえて皮膚の表面にやけどを作る、身体の免疫力を高める目的でおこなわれるお灸がありますが、医学的根拠が不明であり、採用している施術所も多くはありません。
鍼灸治療に対するネガティブなイメージは、ほとんどが施術を受けたことがない人の勝手な思いこみです。国家資格を持つ鍼灸師のおこなう施術は、安心・安全です。
お灸の種類
次に、お灸の種類について紹介します。
もぐさを用いたもの
鍼灸治療院で用いられているもっともオーソドックスなお灸が、もぐさを用いたお灸です。もぐさを小さく固めて火をつけることで、温熱効果が得られます。
もぐさにはユーカリの葉と同様、「シネオール」と呼ばれる成分が含まれています。シネオールには鎮静作用があるため、痛みの改善効果が期待できます。
またシネオールには、リラクゼーション効果も期待できます。さらに、もぐさを燃やした時の匂い自体も、リラックス効果につながります。
貼って使うタイプのもの
最近は家庭でも手軽にお灸ができるよう、シールをはがして貼るタイプのお灸も増えています。貼って使うお灸としてよく知られているのが「せんねん灸」です。
貼って使うタイプのお灸には台座が付けられており、火をつけた部分が、直接肌に触れることがありません。そのため、じんわりとした温かさは感じますが、やけどをするようなリスクがありません。
火を使わないもの
貼って使うタイプのお灸の場合、台座があるため火をつけた部分が皮膚に触れません。それでも火を使うのが怖いという人のために、火を使わないタイプのお灸も開発されています。
お灸に使われるもぐさには、火をつけなくてもある程度の温度になると、熱を発する特徴があります。その特徴を利用して、火を使わないお灸が開発されたのです。
火を使わないので当然のことながらやけどの心配がありませんし、煙が出ることもありません。また、衣服の上から貼って利用することも可能です。
「それって貼って使うカイロと何が違うの?」と思うかも知れませんが、カイロには単に温める効果があるだけですが、火を使わないお灸には温熱効果に加え、もぐさの鎮静効果がプラスされます。
お灸の使い分け方
お灸にはいろいろなタイプがありますが、基本的に鍼灸院であれば、もぐさを利用するケースがほとんどです。
家庭でお灸を使用するのであれば、貼って使うタイプが便利です。また火を使うのが心理的に怖い人にも、火を使わないタイプのお灸がおすすめです。
お灸に慣れてくると、温熱効果がもっと欲しくなる場合もあるでしょう。そのような場合には、もぐさにステップアップすると良いと思います。
お灸をする際の注意点
お灸をする時には、火の取り扱いに注意しましょう。特にもぐさを用いてお灸をする場合、気持ちいいからといってそのまま寝てしまわないように気をつけましょう。
鍼の種類
次に、鍼の種類について紹介します。
ディスポ鍼
ディスポ鍼は鍼灸の施術所でもっともよく用いられている、ポピュラーな鍼です。その特徴は、使い捨てである点です。
使い捨てのため、鍼をいちいち消毒する必要がなく、患者さんが安心して施術を受けられます。また個包装になっているため、持ち運びにも便利です。
皮内鍼
皮内鍼(ひないしん)は、鍼と竜頭(りゅうず)からできている小さな鍼です。短い鍼を皮膚とほぼ平行に刺し、上からテープで固定します。
もともと鍼治療の一種に、鍼を10分から20分刺しておく「留置鍼(りゅうちしん)」と呼ばれ得る技法があります。
ただ鍼を刺したままにしているため、患者さんを動かすことができません。そのため、患者さんの身体的負担が増すこととなります。そこで、鍼を刺したまま動けるよう、皮内鍼が開発されました。
円皮鍼
円皮鍼(えんぴしん)も皮内鍼と同様、刺したままにできる置き鍼の一種です。皮内鍼と異なるところは、円皮鍼の場合、鍼とテープが一緒になっている点です。
また皮内鍼の場合、皮膚とほぼ平行に鍼を刺入するのに対し、円皮鍼の場合は皮膚に対して垂直に鍼を刺入します。皮内鍼も円皮鍼も、刺入時の痛みがほとんどありません。
鍼の使い分け方
一般的に、鍼灸の施術所でおこなわれる鍼治療の場合、ディスポ鍼を用いるケースがほとんどです。ただ効果を長持ちさせるため、皮内鍼や円皮鍼を併用するケースもあります。
皮内鍼と円皮鍼には同じような効果が期待されていますが、施術の際の手数という点で見たん場合、円皮鍼の方が簡単でおすすめです。
鍼を刺す際の注意点
鍼治療をおこなっている際、患者さんが痛みを訴えたらすぐに施術をストップしましょう。また皮内鍼や円皮鍼は小さいので取り扱いに注意しましょう。
お灸や鍼をするのにおすすめのツボ
お灸や鍼は、基本的にツボの場所に置いたり刺したりするものです。そこで、お灸や鍼をするのにおすすめのツボを4つ紹介します。
手三里(てさんり)
手三里は胃腸の調子を整えたり、倦怠感を緩和したりする効果が期待されている腕のツボです。肘を曲げたときにできるシワから指の幅3本分、手首側に向かった場所にあります。
三陰交(さんいんこう)
三陰交は消化器系の不調や、女性特有の症状に効果を発揮するツボです。足の内くるぶしから指の幅4本分、上に移動した場所にあります。
神門(しんもん)
神門のツボは精神的な安定をもたらすことが期待されている手首のツボです。手首を曲げたときにできるシワを小指側に辿っていき、指が骨にあたって自然に止まる場所にあります。
中脘(ちゅうかん)
中脘のツボは消化不良やむくみ、動悸や息切れ、不眠などに効果があるとされるお腹のツボです。おへそから指の幅5本分上に移動した場所にあります。
お灸や鍼は安全で安心な施術法
・お灸や鍼は基本的に熱くもないし痛くもない施術法です
・お灸の中には火を使わないものもあり、服の上から貼って利用することも可能
・鍼には一般的なディスポ鍼以外にも、皮内鍼や円皮鍼といった短い置き鍼がある
お灸や鍼は正しくおこなえば、痛みも熱さもほとんどありませんし、安全かつ安心な施術法です。お灸の中には火を使わないタイプもあり、衣服の上から貼ることもできます。
鍼治療にはディスポ鍼を用いるのが一般的ですが、皮内鍼や円皮鍼を用いて、施術効果を長持ちさせることも可能です。うまく使い分けていろいろな症状に対応しましょう。