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WHOが新型コロナウイルスを「パンデミック(世界的大流行)」だと表明したのはもう2020年3月12日のことです。
1ヶ月が経ち、状況はさらに深刻化してきています。
この新型コロナウイルスに対して、私たちはいったい何ができるでしょうか?
また、どうしたら感染のリスクを減らせるのでしょうか?
今回は、新型コロナウイルスとはいったいどんな感染症なのか、その感染経路についてや適切な対策について、国がとっている対策や専門機関の情報をもとにご紹介します。
緊急事態宣言で感染は食い止められるか?
日本では4月7日夕方に7都府県に「緊急事態宣言」が発令されました。
また、後を追うように愛知や岐阜、三重、北海道、京都のように独自の宣言を出す地域も出てきました。
この「緊急事態宣言」の発令によって、国が強制的に出来ることは『臨時の医療施設を土地の所有者等の同意を得ず使用できるようになる』ことや『知事が医薬品や食品など必要な物資の保管を命じる』ことです。
これによって物資の独占を防ぎ必要な方への供給はある程度進み、医療の受け入れ体制の整備は進んでいくかと思います。
しかし、感染予防という点ではどこまで感染拡大を食い止められるかどうかは定かではありません。
また、追加で緊急事態宣言の範疇ではないものの、国は全国に向けて不要不急の外出の自粛、飲食店等への外出の自粛を呼びかけました。
- とにかく外に出ない。
- 人との接触を減らす。
日本では「ロックダウン」のように町全体を封鎖するような強制力を持たないため、
「自粛要請」という個人の行動で感染拡大を抑えていくことを国は国民に訴えていくことしか現状はできません。
新型コロナウイルスを知る
孫子の言葉で「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉があります。
現代では「“敵”を知り、己を知れば、百戦危うからず」と使われることもあります。
この言葉は、「相手の実情と自分の実力を正しく知っていれば負けない戦い方ができる」という意味のことわざです。
孫子のこの言葉を借りれば、感染を100%防ぐということは難しくても、そのウイルス(彼)がどんなものなのかを正しく知り、自分(己)はどんな状態で何ができるのかを知っていれば、適切かつ的確にリスクを避けられるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの特徴
新型コロナウイルスは世界保健機関(WHO)によって2月11日に「COVID-19(coronavirus disease2019)」という正式名称がつきました。
新型コロナウイルスについて次のような特徴があるとわかっています。
《感染についてわかっていること》
- 飛沫感染および接触感染が主な感染経路である。
- 閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する等の一定の環境下であれば、咳やくしゃみ等の症状がなくても感染を拡大するリスクがある。
- 人と人との距離(Social distancing;社会的距離)を取ることで大幅に感染リスクが下がる。
- 人が密集する場所において限定的にクラスター(集団)での感染拡大が主である。
- 広く市中で感染が拡大しているわけではない。
こうした感染の特徴から日本は独自で「クラスター対策」といわれる対策を行い、これによって感染者数を世界的にも抑えることができたとも言われています。
《症状についてわかっていること》
- 潜伏期間は1~14日(一般的には約5日)とされている。
- 感染すると、発熱や呼吸器症状が1週間前後持続し、強いだるさ(倦怠感)を訴える人が多い。
- 中には無症状の感染者もいる。
- 感染者の8割は人への感染はないと報告されており、入院後であっても治癒する例も多い。
- 一方、重症化のリスクは高く、致死率及び肺炎の割合は季節性インフルエンザに比べて相当高い。
- 特に、高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高い。
- 味覚等が低下する場合もある。
つまり、感染者は発熱や咳、強いだるさといった症状が出ることもあれば、全く無症状の人もいるため、他人からはもちろんのこと自分が感染者かどうかすら判断をすることは難しい。そして、高齢者や持病がある方にとってはかなりリスクが高い感染症だというと。
その一方で、軽症のまま完治する患者もいるため、『免疫力』は感染前にも後にもかなり重要な要素となることがわかります。
感染症について正しく知る
新型コロナウイルスの特徴についてご紹介をしてきました。
ここからは「そもそも感染症ってどういう病気?」ということと、新型コロナウイルスの特徴でもある「飛沫感染」について詳しくご説明をしていきます。
飛沫感染と空気感染
感染症とは、病原体(ウイルス)が体に侵入することにより症状がでる病気のことを指します。
感染症の中でも感染経路(どのように他の人へ感染するか)で2種類に分類することができます。
主な感染経路の分類は「空気感染」と「飛沫感染」の2種類です。
一般社団法人 日本感染症学会の見解によると、新型コロナウイルスの感染経路は「飛沫感染」が主と言われています。
感染症患者の咳やくしゃみ(=しぶき「飛沫」)を直接吸い込むことによって生じる感染経路のことです。
空気感染と飛沫感染の大きな違いは、そのウイルスの大きさです。
空気感染のウイルスは直径5μm以下の細かい飛沫粒子です。
防ぐには通常の予防策+空気予防策をしなくてはなりません。
感染患者のいる室内の気圧を低くしたり、ウイルスが外部に流出しないようにする空気予防策が必要になってきます。
この空気感染をする感染症は次のようなものがあります。
・はしか
・水ぼうそう
・結核 など
一方、新型コロナウイルスの主な感染経路は『飛沫感染』と言われています。
飛沫感染のウイルスは通常直径5μmより大きい粒子です。
これらがヒトの結膜、鼻粘膜、口腔粘膜に付着することで感染します。
しかし、このウイルス自体は大きく重いので、空気中に長くはとどまりません。
(飛距離は1m程度と言われています)
そのため、飛沫感染の可能性が高い行為は、咳・くしゃみ・会話・処置(手当など)とされています。
感染者または感染を疑われる方からの飛沫を防ぐことができれば感染のリスクを下げると考えられるでしょう。
新型コロナウイルスは本当に飛沫感染か?
空気感染のウイルスと飛沫感染のウイルスはその大きさで分けられることが多いとお伝えしました。
新型コロナウイルスの大きさは0.1~0.2μmと言われています。
大きさからすると「空気感染するのでは?」とも考えられます。
ここで大事なことはウイルスがヒトから外に出たあとの「生存期間」です。
生存期間がそこまで長くないウイルスであれば、小さいウイルスは外に出るとすぐに乾燥してしまいますし、大きいウイルスは落下するので感染のリスクが下がります。
では、空気感染のウイルスと呼ばれる「はしか」や「結核」などはどう違うのか。
これらのウイルスは空気中に飛沫として出たあとも、感染性を失わず、空気中を漂って更なる感染者を増やします。
ですから、換気や湿度の調整だけではウイルスは生存してしまうために注意が必要なのです。
新型コロナウイルスは小さいウイルスであるにも関わらず、「飛沫感染」かつ「接触感染」のウイルスと言われています。
これはインフルエンザウイルスと比較的近い存在です。
インフルエンザウイルスの場合には、湿度が20%、温度が10~20℃の状態ではウイルスの感染力が24時間以上続くこともあります。
「こまめな換気」を必要とするのはこうした部分も関係しています。
いかにウイルスにとって生きにくい環境を作るかが感染拡大を防ぐことに繋がるのです。
自覚症状がない感染者もいるため、誰が感染者で誰が非感染者かを判断することは大変困難です。
そのためにマスクは飛沫を飛ばさない・飛ばす量を減らすために有用であると言えるでしょう。
しかし、小さなウイルスでもありますから空気中に漂うウイルスに対してマスクだけで完全に防ぎきることは難しいでしょう。
もちろん、ウイルスが付着した手で目・鼻・口などの粘膜に触れてしまうと、感染のリスクもグッとあがります。
不用意に目・鼻・口を触らないこととはもちろんのこと、手洗いや手の消毒を徹底することが感染リスクを減らすことにつながります。
マスクと手洗いだけでどこまで防ぐことができるか
新型コロナウイルスではなく、インフルエンザウイルスの研究についてご紹介します。
ある学生寮で「マスク着用と手洗いの両方をした群」は「両方しない群」に比べてインフルエンザの症状の人が32~51%に低下したことがわかっています。
しかし、「マスク着用のみの群」は有意の低下が認められなかったとも報告されています。
つまり、マスクだけでは花粉のような大きい粒子を防ぐことはできるのですが、完全にウイルスのような細かい粒子を防ぐことは難しいのです。
ただ、手洗い・うがいとセットにすることで感染リスクの低下に期待できることがわかります。
感染者はマスクをつけて外に拡散しないこと、そして手洗いうがいを徹底して菌が付着した手で粘膜に触れないことが大切です。
この新型コロナウイルスにおいては無症状の感染者も多いことから、全員がマスクをすることで感染者であっても非感染者であっても互いにリスクを減らすことができるでしょう。
まとめ
- 新型コロナウイルスの主な感染経路は『飛沫感染』
- 飛沫感染は感染者からの飛沫(咳・くしゃみ・会話等による)を避けることが感染回避につながる。
- 新型コロナウイルスは0.1~0.2μmの小さな粒子で空気感染のリスクもある。
- こまめな換気をして、ウイルスが生きにくい環境を作ることが空気感染のリスクを下げる。
- 出来る限り人との接触の機会を減らす。
- 自覚症状のない感染者もいるため、誰が感染者で非感染者かを見分けるのは難しい。
- 感染しない・感染を広げないためにも「マスク」は大事。
- 菌が付着した手で目・鼻・口を触らないようにする。
- マスクだけでなく、手洗い・うがいをセットで行うのが大事。
新型コロナウイルスの特徴、飛沫感染と空気感染の違い、適切な予防策についてご案内してきました。
マスクの入手が困難になっている今、やむを得ない外出や人との接触のあとには、その手で目・鼻・口を触らずに手洗い・うがい・手の消毒を徹底しましょう。
また、外から持ち込んだものへの消毒、忘れがちですがスマートフォン等普段から身に着けておりよく触るものにも気を付けることが感染対策となっていくと考えられます。
まずは正しくウイルスについて知り、過度な対策や偏見を持つのではなく適切な対応をして正しく恐れることが大切です。
今回は新型コロナウイルスを「感染症」という観点から特徴と対策をご紹介しました。
次回は、「ウイルス学的な特徴」についての観点から、『新型コロナウイルスに対するアルコール(エタノール)の濃度と効果について』解説します。
(参考)
一般社団法人 日本感染症学会
http://www.kansensho.or.jp/
新型コロナウイルス感染症対策本部(第28回)(内閣府HPより)
https://corona.go.jp/
https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/sidai_r020411.pdf
「空気感染と飛沫感染」(菊池中央病院 中川 義久)
http://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa217.pdf