鍼灸院の開業に必要な準備
はり師きゅう師の資格を取得する皆さんの中には「鍼灸院を開業したい」という夢や目標を持っている方も多いでしょう。
でも、いざ開業するとなると、何から始めていいか分からない、という人も多いです。
この記事では、鍼灸院を開業したい人のために、鍼灸院開業の具体的な手順や注意点などをまとめています。
1.資格
鍼灸院の開業には、国家資格に合格し、資格を取得する必要があります。
また、療養費の受領委任、いわゆる健康保険を取り扱う施術所を開設したい場合には、国家資格に加え、開業する地域を管轄する地方厚生局へ「施術管理者」の届出を行う必要があります。届出ができる要件は、1年間の実務経験と、施術管理者研修(16時間、2日間以上の講義)の受講です。
オーナーが鍼灸師として施術を行う場合
鍼灸院を開設したら、10日以内に開業届を保健所へ提出します。
店舗を構える鍼灸院の場合は「施術所の開設届」が必要となりますが、無店舗で出張型の鍼灸院を始める場合は「出張施術業務開始届」を提出することで開業の手続きができます。
オーナーが施術を行わない場合
オーナーが施術を行わない場合や鍼灸師でない場合も、国家資格者を雇用することで、鍼灸院として開業をすることが可能です。
この場合、はり師・きゅう師免許を持つ者を施術者と定めて登録する必要があります。
2.店舗
店舗型の鍼灸院の開設には「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」により以下の要件を満たす必要があります。
- 6.6平方メートル以上の専用施術室を有すること(柔道整復・鍼灸マッサージ師合わせて施術者が2名以上いる場合、それぞれの施術室が必要)
- 3.3平方メートル以上の待合室を有すること
●施術室は室面積の 7 分の1以上に相当する部分を外気に開放できること(換気扇や換気機能付きエアコンでの代替も可能) - 施術に用いる器具、手指などの消毒設備を有すること
店舗型保健所へ開業届を提出すると、後日、保健所により立ち入り検査が行なわれます。 書類どおりの内装や設備になっているか、不備がないかなどが検査がされます。
賃貸物件の場合
鍼灸院を開業するとなると、テナントを探すのが一般的ですが、
小規模な鍼灸院の場合、事務所や店舗として利用可能な一般賃貸マンションなども一部候補になります。
これらを検討する場合は、特に室内でお灸を用いることや人の出入りがどこまでOKか(時間/頻度)、看板を出していいかなどの確認を事前にしっかり行うことで安心して営業が可能です。
自宅併設の場合
自宅併設で鍼灸院を開業する場合、一番のメリットはコストを抑えられることでしょう。
通勤に時間がかからない点や、自宅での作業を並行して行えることも魅力です。
そのため、子育て中の鍼灸師の方や、時間や曜日を限定しての開業を考えている方、副業での開業を考えている方に人気です。
気をつけなければいけない点はやはり「生活感の排除」でしょう。
入口を分ける、分かりやすい看板を設置する、生活音が聞こえないように場所を工夫するなど、来院する患者様の立場に立った配慮が必要です。
自分では気づきにくいのは、生活に伴う匂い。通常の店舗以上に注意をはらうようにしましょう。
出張施術の場合
出張施術はコストがかからない開業方法ではありますが、その分注意を払うべき点もあります。
また、集客がしづらかったり、比較的信頼を得るのに苦労する場合も多いでしょう。
出張施術の場合は、ご利用いただく患者様にストレスを与えないことが重要です。
施術に必要なもので持っていけるものは全て準備しましょう。
- 施術用のベッド
- ベッドが床を傷つけないために脚の下に敷くもの
- 清潔な道具類
- 清潔なタオル類
患者様のご自宅に伺う場合、気楽な面も多い反面、いつも以上にその身なりや行動が見られていると考えてよいでしょう。
出張に使用する車の中や、道具類、制服などの清潔感にも注意をしましょう。
3.開業資金
開業資金は資金がかかる順に
テナント開業、マンション等一般賃貸での開業、自宅開業、出張開業
の順番になる場合が多いです。
テナント開業の場合、一般的な新規開業にかかる費用相場は、300~600万円程度が目安とされています。
開業後すぐは安定した収入が得られない場合もあるため、少なくとも半年先くらいまでの運転資金を用意すると安心です。
自宅開業や出張開業では、比較的費用はかかりませんが、どのような開業形態の場合も早い段階から先を見越した具体的な資金計画を立てておきましょう。
施術器具
鍼灸院の開業は、他の業態に比べて道具類の準備は少なくシンプルと考えてよいでしょう。
- 施術ベッド
- 衛生設備
- 鍼灸治療に必要な道具
- 必要に応じた電機治療などの機器
- タオル、シーツ、枕類
があれば、最低限の施術は可能です。
これに加えて
- 施術室や待合室で使用する椅子やスリッパなどの備品
- 問診表や診察券などのペーパーアイテム
- パソコン、コピー機などの事務用品
- 宣伝用の店頭看板
これらを揃えることで、鍼灸院としての開業が可能となります。
テナント料
テナント料金は、出張での開業やマンション(一般賃貸)での開業の場合費用を抑えることが可能ですが、テナントを借りる場合はコスト面で大きな割合を締める項目になります。
初期費用、ランニングコストのいずれもしっかりと予算を決めて想定外の出費が起きないように準備をしましょう。
特にまとまった出費となる初期費用について以下にまとめます
・保証金:賃料の数カ月分~12カ月分
物件によりかなり幅があります。「保証金」の意味合いによってその取り扱いは違ってきますが、民法622条の2第1項に定める「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」であるならば、「敷金」と同様の解釈になります。
退去時の引き渡し条件も要チェック。
「スケルトンでの引き渡しが条件」という場合があり、そのときの造作解体・撤去には相応の費用がかかります。その負担の取り決めと保証金の取り扱いについては、契約時に明確にしておきましょう。
・礼金:物件ごとに異なる
物件オーナー(貸主)へのお礼という意味合いのものが費用として慣習化されたもの。
設定は物件ごとに異なりますが、「礼金なし」という物件もあります。礼金は一度支払ったら返還されないものになります。
・前家賃
契約月の翌月分の賃料を契約時に支払います。
・仲介手数料
仲介業務を行う不動産会社に支払う費用です。
・造作譲渡料
居抜き物件を賃借する場合に、前の店舗の内装や設備を引き継いで使うために支払う費用です。規模や経過年数などにより金額に幅があるので、物件ごとに確認が必要です。
などなど、月額賃料が10万円という物件でも、初期費用が100万円近い金額になることも十分にあり得ます。
条件によってかなり異なるので、標準的に必要になる金額を把握した上で予算をたて、実際にどれだけかかるのかを明確にすることが重要です。
ホームページ作成
ホームページを作成するには
①自分でつくる
②ホームページが作れる知り合いに頼む
③業者に依頼する
などの方法があります。
①自分でつくる
最近ではホームページを自分で作成する人も増えてきました。
Wixやperaichiなど自分で簡単にホームページが作れる便利なサービスも色々存在します。
自分で作ると、思い通りのものが何より安価で作成できると思いがちですが、反面とても時間がかかってしまうパターンも多いです。
SEO対策や何かあった時のトラブル対応なども考えると、詳しい人に依頼した方が安心ともいえます。
得意な人や時間がある人は、自分で作ることでかなりコストを抑えることが可能です。
②ホームページが作れる知り合いに頼む
安価で依頼できる可能性があるのがメリットですが、知り合いに依頼した場合、思い通りにならなかった時や料金面などでトラブルになりやすいです。
信頼できる知り合いとの間で、しっかりと取り決めの契約を交わした上で依頼するようにしましょう。
③業者に依頼する
料金や内容は数万~100万以上まで本当に様々です。
過去の制作実績を実際に見たり、治療院業界に特化した会社を選ぶなどの工夫が必要
です。
開業時には開業支援の補助金などでホームページ費用の一部を補助してもらえる制度が使える場合があります。そういったものもチェックしてみると良いでしょう。
運転資金
鍼灸院を開業してすぐに、患者様でいっぱいになるとは限りません。(ほとんどの場合はそうはいかない場合が多いでしょう)
新規の患者様に来ていただき、継続して通ってくださる患者様やご紹介が増えるなど、鍼灸院の運営が安定するまでには、少なくとも6ヶ月以上かかると考えたほうが良いでしょう。
この間、テナント料金の支払いや広告費の支払いなど、ランニングコストの支払いが発生します。
特に広告費など、初期の間は出費も多くなりますので、運転資金として少なくとも6ヶ月の支払いと生活が確保できる状態を作れると安心です。
広告宣伝費
広告宣伝費は、鍼灸院の開業時に売上を安定させるためには、しっかりと予算を取りたい項目です。
主な項目はホームページの制作費、ポータルサイトへの掲載費、チラシの印刷~ポスティングの費用などになります。
近年ではSNSの運用などの工夫で、コストを抑えて集客をすることが可能になったり、
紹介やイベントへの参加を通して集客コストを下げるという工夫をすることもできます。
いずれにしろ集客ができないと売上を上げることはできません。
そして開業してすぐは注目を浴びやすく、集客しやすいチャンスの時期でもあります。
初期の段階でしっかりと集患するためにも、広告宣伝にはしっかりと予算をかけることをお薦めします。
開業資金の調達方法
開業資金の調達は、自分でお金を貯める方法もありますが、融資を受けることも検討しましょう。
融資を受けて予算を多く確保することで、より良い設備投資をすることが可能になったり、広告宣伝費にコストをかけて早期に売上を安定させることが可能になる場合があります。
1.日本政策金融公庫を利用する
自治体が窓口となり、信用保証協会の保証を受けて民間金融機関から融資を受けることができる制度です。
通常の融資に比べて審査が通りやすく、まだ実績がない開業前からの申し込みが可能です。また、連帯保証人が不要で、金利が低い点も大きなメリットです。
自治体によっては、元金返済の一定期間据え置きや支払利息の補助といった独自の制度が設けられていますので、詳しくは問い合わせてみましょう。親身になって相談に応じてもらえる場合が多いです。
注意点として、融資を受けるまでに数カ月と時間を要する場合があるため、検討をはじめたら早めに相談するようにしましょう。
2.地方自治体の融資制度を利用する
国や金融機関だけでなく、地方自治体からも融資を受けたり、支援を受けたりすることが可能です。
ほとんどの地方自治体では、低金利・無担保・無保証・全期間利率固定など、創業資金の融資を受ける際の利子相当額の一部、もしくは全額を補助してくれる制度を整えています。
地方自治体では融資制度以外にも、起業塾や、セミナー、個別相談など様々な開業を目指す人のための支援があります。
地方自治体は、地方の現状・特性・課題をよく理解しているため、地方での起業について的確なアドバイス・支援を受けることが期待できます。
鍼灸院は地域密着型のビジネスである場合がほとんどなので、自治体が手がける個別相談などを利用してみましょう。
鍼灸院の開業の注意点
ここまでお伝えしてきた内容に基づき、鍼灸院を開業する際に注意したい点をまとめました。
事業計画や資金計画をしっかりと立てる
鍼灸院を開業すると、想定外の出来事が起きたり、思った通りに進まない、という時も出てくることでしょう。
そんな時に、初期の計画がしっかりしていれば、「今どれくらい計画とずれているのか」を確認して軌道修正をすることができます。
初期の計画ができていないと「気付いた時には手遅れだった」という状況になりかねませんので、計画はしっかりと立て、可能であれば支援してくれる方や経験者の方、自治体などに相談して、独りよがりな内容になっていないか確認すると安心です。
開業届提出前に保健所に相談する
開業の要件に従って準備をする中で、店舗の内装がある程度確定した段階で保健所に「開業要件を満たしているか」「この予定で内装・外装等を進めて問題ないか」を確認するようにしましょう。
自分の基準で全て準備をしてしまってからだといざ開業届を出すというタイミングになって、条件の不足などのトラブルが発覚することがあります。
管轄の保健所によって判断が異なることもあるため、管轄の保健所に事前に相談をしておくことで、無駄な出費やスケジュールの遅れを防ぐことができます。
広告に関する規定に注意する
鍼灸院の広告の内容は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律によって制限されています。開業時はチラシなど広告を出す機会が多くなりがちですが、万が一規定に違反した場合、全て発行した施術所の責任になりますので注意しましょう。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律
○厚生省告示第六十九号
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)
第七条第一項第五号の規定に基づき、あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業若しくはきゅう業又はこれらの施術所に関して広告し得る事項を次のように定め、平成十一年四月一日から適用し、昭和二十六年十月厚生省告示第二百十八号(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第七条第一項第五号の規定に基づき広告し得る事項を定める件)は、平成十一年三月三十一日限り廃止する。
(平成11年3月29日)一 施術者である旨並びに施術者の氏名及び住所
二 第1条に規定する業務の種類
三 施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
四 施術日又は施術時間
五 その他厚生労働大臣が指定する事項(※)2 前項第1号乃至第3号に掲げる事項について広告をする場合にも、その内容は、施術者の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたつてはならない。
※【広告し得る事項】
一 もみりょうじ
二 やいと、えつ
三 小児鍼(はり)
四 法第九条の二第一項前段の規定による届出をした旨(平成28年6月29日追加)
五 医療保険療養費支給申請ができる旨
(申請については医師の同意が必要な旨を明示する場合に限る。)
六 予約に基づく施術の実施
七 休日又は夜間における施術の実施
八 出張による施術の実施
九 駐車設備に関する事項【施術者である旨】に含まれる表現
・あん摩マッサージ指圧師(厚生労働大臣免許)
・はり師、きゅう師(厚生労働大臣免許)【広告し得る事項】四について
都道府県知事に開設の届出をした旨のこと
ホームページは現在のところ広告規制の対象外となっています。
しかし景品表示法の規制などもあり、誇大広告と思われる内容は避ける必要があります。
この規定に違反した者は30万円以下の罰金に処するとしています(柔道整復師法第30条第5号、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第13条の8)
鍼灸院開業を成功させるポイント
鍼灸院開業を成功させるポイントは様々ありますが、①開業前の準備、②開業後すぐの取り組み(プレオープン期間など)は特に重要です。
ターゲットのニーズに合った立地で開業する
鍼灸院を開業する場合、開業前に考えるべきなのは立地と院の規模です。
立地は「どういった方に来院してもらいたいのか」を考えることが重要です。
・通りすがりで立ち寄ってほしい→駅の近く、オフィス街、看板が出せるところ
・身体が不自由な高齢者→階段を使わなくていい場所
・地元の人たちに愛される治療院→商店街や住宅地からの通院を想定した場所
など、まずはターゲットをしっかりと決めてから物件探しを始めましょう
院の規模に関しても同様で、
・1人1人の患者様を完全予約制でゆっくり対応したい→ベッド1台
・より多くの患者様を診たい、スタッフ雇用も考えている→適したベッド数
ターゲットとやりたいことが決まれば、立地と院の規模が決まります。
まずはそこからしっかりと考えてみましょう。
プレオープン期間を設ける
オープンしてすぐの期間は、周辺からの注目も集まりやすい期間です。
プレオープンの期間を2日~7日程度設け、この期間に「多くの方が気軽に院を訪れられる仕組み」を作ることをお薦めします。
例えば、「内覧会(院内を気軽に見学できる)」「施術体験会(安価で特に症状がない場合にも来院を歓迎する機会をつくる)」「プレオープン施術割引」などが有効です。
この期間は売上を上げることよりも、できるだけ多くの見込み患者様にお越しいただくことを優先しましょう。
お越しいただいた方が周囲に紹介などをしやすいように、チラシやご案内、紹介用のカード、特別割引などを準備しておくとより効果的です。
インターネットを活用する
現代においてインターネットの普及率は83%を超えており(2022年)、多くの調べものがインターネットで行われており、店舗ビジネスの成功にはインターネットの活用が不可欠です。
- グーグルマイビジネスに店舗情報を登録する
- 各種ポータルサイトに登録する
- SNSのアカウントを作成する
- ホームページを作成する
まずは無料でできるものからで問題ないので、できることはやってみて、効果的な方法を見つけていきましょう。
継続率を高める
新規の患者様を集客し続けるのはとてもコストがかかります。鍼灸院の経営を安定させるには、適切に継続して通っていただける環境を作ることが大切です。
「良かったと思ったら勝手に継続してきてくれるだろう」ではなく、継続して来院してもらえる工夫をするようにしましょう。
- 2回目以降の来院についてご提案をする
- 複数回継続して来院することのメリットを伝える
- 必要に応じた回数券などの設計をする
- 定期的にキャンペーンを行うなど離脱をしないための工夫をする
また、継続率を高めたい場合、鍼灸治療を継続して受けていただくためのメニューを設置することを考えましょう。
例えば美容目的のメニューの場合、痛みの治療と異なり継続的に「より良くするため」の通院を促せます。
他にはスポーツコンディショニング目的のメニューなども継続性のあるメニューといえるでしょう。
鍼灸院開業までの手順の確認
これまでの内容を踏まえ、鍼灸院を開業する際には概ね以下のような流れになります。
①ターゲットを決める
②開業形態を決める(出張/マンション/自宅/テナント等)
③予算を確保する
④必要に応じ資金調達を検討する
⑤物件を決める
⑥内装・外装・ロゴなどの準備・インフラ準備
⑦ホームページ等の準備、広告設計
⑧メニューの設計
⑨広告の準備
⑩プレオープンの設計
簡単に10個にまとめましたが、細かく分けるともっと多くのやるべきことがあります。
余裕を持った計画を立てて開業準備を進めましょう。
メイプル名古屋では鍼灸院開業を目指す先生を全力でサポートしています!
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